It's a Man's Man's Man's World

  • KEI
  • 2011.11.03


本日、麻布のとある坂の上にて。

「日差しが強いねェ~。」

唐突に後ろから声を掛けられた。

振り返れば、そこには1人のオッサンがにこやかな表情で立っている。

・・・えーと。

誰?

そう思いながら、様子を伺うと、その紺のブレザーの胸には「●●ハイヤー」なる刺繍が。

どうやら、客待ちのハイヤーの運転手が暇を持て余して、居合わせたボクを話し相手に決め込んだようだ。


「ハァ・・・。」

煮え切らないボクのリアクションを気にするでもなく、彼は一方的に喋り出した。

「・・・いやね、オレさ、退職金出たら、家のフローリング直そうと思ってね。」

「ハァ・・・。」

「でさ、車、換えちゃおうかな~なんてね、退職金で。」

「ハァ・・・。」


来年、定年なんだそうだ。

それはそれは、長い間お疲れ様でした。


・・・・・。

つーかさ。

言っていい?

知らねーし。

興味ねーし。

そう思いながらも、僕がその場を離れられなかったのは、他でもない、彼の頭部に釘付けになっていたからだった。

それは、もうね。

すごいヅラでしたから。

東西南北、どこから見ても。

老若男女、誰から見ても。

「ヅラだね!」

胸を張ってそう言える、そんな完全なヅラだった。

そのあまりに堂々たる「かぶってる感」に

「もしかして制帽?」

という疑惑も生じたが、そのどこを探しても「●●ハイヤー」の刺繍を見つけることは出来なかった。


とにかく、彼は1人で絶え間なく喋り続け、10分程経った頃、ようやくボクのぶしつけ極まりない視線に気付いたようで

「あ、コレ?」

と言って頭に手をやった。

「イヤ、その・・・」

今更ながらボクが取り繕おうとすると

「やー、コレもイイのにしようと思って。退職金で。」

と笑った。




退職金ー。

それは男の夢を叶える万能の響きに満ちている。






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